研究内容

 世界初の抗生物質ペニシリンの発見(1928年)、結核の特効薬ストレプトマイシンの発見(1944年)を経て、1960年代までは新規抗生物質探索の黄金時代が続きました。また、病原菌の生育を抑制するという、狭い意味での抗生物質だけではなく、抗寄生虫剤、抗がん剤、免疫抑制剤など、種々の生理活性をもつ低分子有機化合物が微生物代謝産物から次々に発見されてきました。しかしながら、このような低分子有機化合物の探索研究は1980年代以降、勢いを失ってきました。その背景には、「有用な化合物はすでに見つけ出され、これ以上探しても新しい有用天然物は得られないだろう」という考えがありました。
しかしながら、次世代DNAシーケンサの登場によって、多くの微生物ゲノム(特に放線菌ゲノム)が解読されると、その状況は一変しました。①個々の微生物はこれまで考えられていた数より、数十倍も多くの二次代謝産物(生育には必須ではない低分子有機化合物であり、多くの場合、その微生物種に特有な化合物)を生合成する能力を有していること、②二次代謝産物生合成遺伝子群の多くは通常の培養条件では十分発現していない「休眠生合成遺伝子群」であること、が明らかにされたのです。つまり、「クスリ」を作るという微生物の能力のほんの一部しか我々は見えていなかったということがわかりました。この隠された微生物の能力を引き出すことが本プロジェクト研究の大きな目標です。

 「ゲノムマイニング」とは、微生物ゲノムを「採掘」することで、そこに「埋蔵されている」新たな化合物を取得するという手法であり、近年、急速に発展してきました。一方、遺伝子工学・代謝工学の進歩により、微生物細胞内で新たな代謝経路を自在にデザインすることで非天然化合物を含む有用化合物を生産するという試みも活発になり、いわゆる「合成生物学」の一大領域を築いています。本プロジェクト研究では、ゲノムマイニングにより得られる新規な生合成酵素遺伝子群を利用し、人工染色体工学技術を駆使した合成生物学的手法により、新規な有用天然化合物を創製・大量生産することを目指しています。新規酵素の取得、長鎖DNA取扱い技術および細胞工場創製技術の開発など、基礎・応用の両面から重要な研究課題です。

連絡先

研究代表者
東京大学大学院農学生命科学研究科
教授
大西 康夫

〒113-8657
東京都文京区弥生1-1-1

E-mail:
ayasuo[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
([at]を@に変換してください)

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  • ゲノムマイニングと合成生物学の融合による放線菌二次代謝産物のケミカルバイオロジー
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